デジタル資産の一覧の作り方 — 相続の話し合いの前に
郵便物から銀行の名前が出てきた。スマートフォンに見慣れないアプリがあった。カードの明細に毎月の引き落としが並んでいた——手がかりを見つけるたびにメモは増えるのに、結局のところ何がどれだけあるのかは分からない。デジタル資産を調べていると、手がかりが集まるほど全体像が見えにくくなることがあります。
先にお伝えすると、バラバラに調べた情報は、1枚にまとめないと使えません。家族で話し合うときも、金融機関や専門家に相談するときも、相手が見たいのは「何が、どこに、どんな状態であるか」が並んだ一覧です。逆に言えば、この1枚があれば、家族にも相談先にも同じものを見てもらえます。
この記事では、デジタル資産の一覧に書く項目、書いてはいけない情報、マイナスの財産の扱い、そしてできあがった一覧をどこへ持っていくかを整理します。ネット銀行や証券、暗号資産それぞれの探し方は個別の記事にありますので、ここでは「調べた結果をまとめる工程」だけを扱います。
- 有料サービスの課金が続いているカードや口座の明細から提供元を特定し、各社の解約の窓口へ連絡します。手順はサブスクの解約リストを参照してください
- 未払いの請求書や督促状が届いた差出人・金額・期日を備考に書き足します。支払ってよいかどうかは法的な判断になるため、自己判断せず弁護士などの専門家に確認してください
- 借入や未払いなど、支払う側のものが見つかった相続をどうするかは法的な判断です。裁判所は、相続の放棄の申述は「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」にしなければならないと定められていると案内しています。期限があるため、早めに弁護士などの専門家へご相談ください
- 資産の総額が大きくなりそう相続税の申告が必要かどうかは税の領域です。国税庁は、申告書の提出期限を「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内」としています。判断は税務署や税理士に確認してください
ここで挙げた期限は、公的機関が公表している案内をそのまま示したものです。起算日や、期限を延ばせるかどうかはご家族の事情によって変わります。相続の手続きには期限が定められているものがあるため、当てはまりそうな行が1つでもあれば、自己判断で進めず早めに専門家へ確認してください。当窓口では、支払いや相続そのものの判断はできません。
一覧に書くのは「どこに何があるか」までです。中身を開くための情報は書かず、必要になった時点で各社の正式な手続きで確認します。
なお、仮にパスワードが分かっている場合でも、残高の照会や名義変更は各金融機関の相続手続きが必要です。一覧を作る段階で無理にログインしようとする必要はありません。パスワードが分からない端末やアカウントへの向き合い方は、デジタル遺品整理のやることリストにまとめています。
マイナスの財産と、期限のあるもの
一覧にはプラスの資産だけでなく、支払う側のものも同じ表に並べます。未払いの利用料、継続している課金、借入などです。プラスだけを並べた一覧は、判断を誤らせます。
なぜ「1枚の一覧」が必要なのか
理由は3つあります。

1つめは、家族のあいだの認識のずれを防ぐためです。「証券があるらしい」「暗号資産をやっていたと聞いた」という伝聞のままでは、話し合いが憶測で進みます。誰かが調べて分かったことと、まだ分かっていないことを同じ紙の上で区別すると、それだけで議論が事実に戻ります。
2つめは、相談したときに話が早いからです。金融機関の相続窓口も、税理士などの専門家も、最初に確認するのは対象となる財産の全体像です。国税庁は、相続税の課税対象となる財産について「現金、預貯金、有価証券、宝石、土地、家屋などのほか貸付金、特許権、著作権など金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのものをいいます」と説明しています。ネット上にしか記録がない資産も、この考え方の外にあるわけではありません。だからこそ、口頭ではなく一覧で示す必要があります。
3つめは、抜けに気づけるからです。列をそろえて並べると、「証券会社の名前は分かったのに窓口の連絡先が空欄のまま」「この行だけ手がかりが何も書けていない」といった穴が目に見えます。頭の中や個別のメモのままでは、この穴は見えません。
一覧に書く6つの項目
一覧はノートでも表計算ソフトでも構いません。大切なのは、次の6つの列をそろえることです。
- 種別預金 / 証券 / 暗号資産 / 電子マネー・ポイント / 有料サービス / その他。まずこの6区分に振り分けます
- 提供元の名称金融機関名やサービス名を正式名称で。暗号資産の交換業者は金融庁が登録一覧を公表しているため、名称の確認に使えます
- 手がかりの出どころ郵便物 / メール / アプリ / 通帳の入出金 のどれで見つけたか。あとで裏づけを取り直すときに効きます
- 確認状況未確認 / 問い合わせ中 / 確認済み の3段階。今どこまで進んだかが一目で分かります
- 窓口の連絡先各社の相続手続きの窓口。調べた時点で控えておくと、次に動く人が探し直さずに済みます
- 備考期限があるものは特記します。継続課金や未払いも、ここに書き添えます
種別を最初に置くのは、あとの手続きが種別ごとに分かれるからです。預金と証券では相続手続きの窓口も必要書類も違いますし、有料サービスは財産というより解約すべき契約です。
手がかりの出どころも、省かずに書いてください。「なぜこの会社の名前が挙がったのか」を後から説明できないと、家族にも相談先にも根拠を示せません。郵便物なら現物を、メールなら差出人のアドレスを一緒に保管しておくと確実です。
確認状況は、この一覧をチェックリストとして機能させる列です。ネット銀行や証券はネット銀行の口座の探し方や証券口座の探し方、暗号資産は暗号資産の相続での調べ方の手順で調べ、進んだぶんだけ「未確認」を書き換えていきます。
一覧に書いてはいけないもの
一覧ができたら、どこへ持っていくか
- 1各金融機関の相続窓口に連絡する
「提供元」の列を上から順に、口座やサービスごとの窓口へ。その口座の手続きと必要書類は、それぞれの会社が案内しています
- 2戸籍の書類をまとめる(法務局)
法務局の法定相続情報証明制度を使うと、認証文の付いた法定相続情報一覧図の写しが無料で交付され、預金の払戻し手続や相続税の申告などで戸除籍謄本等の束を何度も出し直す必要がなくなるとされています。不動産の登記に関わることは、司法書士や法務局の担当です
- 3相続税のことは税務署・税理士に相談する
申告が必要かどうか、いつまでに何を出すかという税の判断はここです
- 4法的な判断・話し合いは弁護士に相談する
支払ってよいかどうか、相続をどうするか、遺産分割で意見が分かれたときの進め方は、法的な判断になります
- 5調査そのものが行き詰まったら専門業者に相談する
端末が開けない、故障している、手がかりが途切れたといった段階の相談先です
ここで、当窓口の立場もはっきりお伝えしておきます。私たちが行うのは、デジタル遺品の調査のご相談と、対応できる専門業者のご紹介までです。口座の名義変更は各金融機関の相続窓口、登記は司法書士や法務局、相続税の申告は税務署や税理士、支払いや遺産分割といった法的な判断は弁護士が担当します。また、ご相談いただいても、ロックされた端末を開けたり、本人確認を代行したりできるわけではありません。一覧の空欄が「端末が開けない」「手がかりが途切れた」で止まっているなら調査の領域、埋まった一覧をどう扱うかという段階なら、それぞれの正式な窓口の領域、という切り分けになります。
参考にした公式情報
この記事は、次の公式ページの記載にもとづいて作成しています(最終確認: )。手続きの内容は変更されることがあるため、実際に進める際は各公式ページで最新の案内をご確認ください。
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4105.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm
- https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
- https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000013.html
- https://www.fsa.go.jp/policy/virtual_currency/index.html
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法務・税務等の専門的な助言ではありません。個別の手続きについては各サービスの公式窓口や専門家にご確認ください。記事の内容は公開・更新時点の情報に基づいています。